2012年5月18日金曜日

幽閉事件

久しぶりに、大学ネタです。(usagiは社会人学生として現在、早稲田大学で学んでいます。) 


まだ寒かったころの出来事です。

そのゼミは、夜遅くまでやっていることで有名なゼミだった。

ゼミが終わったのが10時半、教室を出ると、守衛さんが鍵を片手に、ゼミ生が退出するのを待っていた。

皆と一緒に階段を下りかけたが、トイレによろうとゼミ生と分かれてひとり、女子トイレに。

そして、いざ建物から出ようとしたら、なんと、建物の出口の扉がしまっているではないか。

ガチャガチャ、とノブを回してみるが、完全に施錠されている。
ヤバイ、と思ったが、出口はもう一つあったことを思い出して、そちらに走ると、ガーン、その扉も施錠されていた。

もしかして、私って、建物の中に一人で閉じ込められた?一瞬、固まってしまった。

でも、もしかして、守衛さんが建物のどこかにまだいるかもしれない。

「だれかー、いませんかー、すみませーん、とじこめられちゃいましたー!」と大声で叫んでみる。

しーんとして、返事なし。

今度は、もう少し大きい声で、叫んでみる。

「すみませーん、だれか、いませんかーッ!!」 

・・・・・ノーリプライ 

 ガーン



私一人、建物の中に閉じ込められてしまったらしいと悟る。よーし、それなら、こんなときでもなければ、決してできないことをやってみようと思い、あらん限りの声を振り絞って、助けてー、HELP!!!

「助けてー」の声は、虚しく虚空に吸い込まれていった。

どうしよう、このまま明日の朝まで出られなかったら、どうしよう。
今は明かりがついているけど、そのうちこれも消えるんだろうか。
ひょっとして、暖房も止められる?
極寒の師走に、一晩ここで、一人で耐えろと?

夕飯も食べていないぞ。
酒でもあれば、床にだって寝てやるが、そんなものがあるはずもない。

凍死したら、どーすんだ!

やっぱり、何としてでもここから出なければ、私にはまだまだ未来があるんだ。

その建物の名前は、「1号館」。
そうです。1号館です。エライのです。
だから、正門のすぐヨコに建っています。

早稲田のキャンパスはしょっちゅう、どこかが工事中で、古い建物が壊され、高層ビルに建て替えられています。(よほどお金があるんだろうなあ)

この1号館は、残り少なくなった、昔のアカデミックな雰囲気を残す素敵な建物です。
しかし今はかえって、報われなかったアカデミズムの亡霊が潜んでいるようで、不気味な感じがします。

四角い建物の真ん中に、庭が見えます。そこに通じる扉を見つけてノブを回してみると、なんと、鍵がかかっていないではありませんか。

これで外に出れると、大喜びで扉を開け、庭に飛び出しました!

ところが、そこは中庭。ヨーロッパに良くあるような、中庭なんです。その中をぐるぐる、ぐるぐる回っていみましたが、建物の外に出る道は、どこにもありませんでした。

usagiは途方にくれ、中庭の四角い夜空を見上げて、ため息をつきました。

まるで、けっして這い上がれない深い井戸に落ちてしまったような、真っ暗な気分です。



とにかく、冷静にならなければと、自分に言い聞かせた。
どうやったら、ここから出られるか、考えるんだ、usagi!

そうだ、こういう時こそ、携帯の出番だ。
誰かに連絡して、守衛さんのところに連絡してもらおう。
しかし、誰に・・・・

そして、突然、思い出したのだ。
ついさっき別れたばかりのゼミ生の一人と、携帯番号を交換したということを。

たまたま、隣に座っていた彼。私が出版編集の仕事をしていたと自己紹介したら、自分も出版に就職したいので、せひお話聞かせてください、ということで、携帯番号を交換していたのだ。

つい、さっきのことである。
あー、usagiはなんて運の強い人間なんだろう。

震える手で、携帯のボタンを押す。
出てくれよ、聞こえてくれよ、おねがいしますよー、と祈るように、彼の声を待つ。
が、何度鳴らしても、応答する気配はない。

きっと、マナーモードなんだよね。
私だって、携帯の呼び出しって、まともに出れたことないもんなああ。

しかし、彼をどうしてもつかまえなくちゃ。
私の命綱だ。

そして、2度、3度、ついに4度目に、
「はい、もしもし」という声を聞くことが出来たのだ。


あー、これで助かった

「どうしました。なにかありました?」

彼の声が、神の声のように聞こえた。

「閉じこめられちゃいましたー、テヘ」

涙声になりそうなのをぐっとこらえて、冗談っぽく言う。

「あー、じゃあー、僕たちまだ学校の近くにいますので、そちらへ向かいますね」

しばらく待っていると、扉の鍵がガチャガチャと開けられ、守衛さんが顔をだした。彼が連絡してくれたらしい。

「すみませーん、私って、バッカみたい。お手数おかけして、スミマセン」
と、泣きそうになったのを悟られないように、笑顔で謝る。

ただでさえ目立ってしまう、シニアの社会人学生である。
こんなドジをやらかしたら、ゼミの笑いもの、守衛室でもいい話のネタになってしてしまったに違いない。

しかし、危機一髪とは、このことだ。
たまたまその日、別れ際にゼミ生と携帯番号を交換していたからすぐに出られたが、そうでなかったらと思うと、ぞっとする。
(完)

とにかく、目立たないように、目立たないようにと思っていても、なぜだか、とても目立ってしまうシニア学生。


今度もまた、やらかしてしまいました!

2 件のコメント:

ripple さんのコメント...

助かってよかったですね。
どんなにか心細い思いをしたことでしょう。
わたしも早稲田のOBです。
1号館というと図書館の前の法学部の建物
でしょうか。古い石のビルにひとりぼっち。
ケータイがあって救われましたね。
ドキドキしながら読みましたよ。(^-^)

ripple

usagi さんのコメント...

rippleさん、コメントありがとうございます。大先輩に読んでもらえて光栄です。本当に、携帯って命綱になるんですね。遭難した人の気持ちがわかりました!